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ハノイで小規模飲食店を開業するための準備と手続きガイド

ハノイに移住して日本式居酒屋を開業したいと考えている皆さん、こんにちは!本記事では、ビザ取得から法人設立、営業許可、物件探し、税務手続き、開業費用の目安、そして先輩オーナーの事例まで、必要な手続きや準備の流れを分かりやすく解説します。専門用語はできるだけ噛み砕き、ベトナム語が必要な場面もきちんとお伝えしますので、安心して読み進めてください。それでは、ハノイで居酒屋を開業するまでの道のりを一緒に見ていきましょう。

1. ビザと在留手続き:投資ビザ(ĐT)と一時在留許可(TRC)

ハノイで居酒屋を始めるには、長期滞在が可能な投資家ビザ(ĐTビザ)の取得が事実上必須です。観光ビザや商用ビザでは短期滞在しかできず、繰り返し延長する手間や制限があります。投資ビザは外国人がベトナム企業に出資・投資するための在留資格で、出資額に応じて DT1~DT4 の4種類に分類され、それぞれ最長滞在期間が異なります。例えば、ĐT3ビザは出資額が約3億~50億ドン(約1.5億~25億円相当)の場合に該当し、ビザの有効期間は最長3年です。一方、出資額がこれ未満の ĐT4ビザ だと有効期間は最長1年となり、長期の店経営には不向きです。将来的に現地に腰を据えてお店を運営するつもりであれば、少なくともĐT3以上(目安として日本円で数千万円規模の出資)に該当する投資ビザを取得することをおすすめします。

ビザを取得して入国した後は、一時在留許可証(Temporary Residence Card, TRC)の申請も検討しましょう。TRCはいわばベトナム版の在留カードで、対象ビザを持つ外国人に対して 2〜10年の長期滞在許可が与えられる制度です。例えば投資ビザのDT1~DT3区分を所持していれば、それぞれのビザに応じて最長10年から数年のTRCを取得できます(DT1ビザで最長10年、DT3ビザなら最長3年程度が目安)。一度TRCを取得すれば、その有効期間中はビザの延長手続き無しでベトナムに居住でき、出入国もカードの提示だけでスムーズになります。私も会社設立後にこのTRCを発行してもらったおかげで、長期にわたり腰を据えてハノイで生活・店舗運営ができるようになりました。なお、TRC申請時には無犯罪証明書など追加書類の提出も必要ですが、長期滞在予定の方には取得する価値が高いでしょう。

補足: 投資ビザ取得にはベトナムの入国管理局などでの許可手続きが必要で、日本で事前に申請するケースや、ベトナム入国後にビザ種別変更を行うケースがあります。いずれにせよ、居酒屋開業=投資目的の明確なビザが求められる点を念頭に置いてください。また、労働許可証(ワークパーミット)については、出資者自身が会社の代表者や投資家として活動する場合は免除されることもあります(投資家ビザ保有者は労働許可証なしでTRC取得が可能)が、雇用者として現地スタッフを雇う際には別途手続きが必要になる場合もあります。このあたりの最新情報は在ベトナム日本国大使館や現地コンサル会社のサイトで逐次確認すると良いでしょう。

2. 法人設立の手順:会社形態・資本金・登録証取得まで

ビザの次は現地法人(会社)の設立です。外国人がベトナムで飲食店を開業するには、自分名義の法人を立ち上げ、その法人名義で店舗営業許可を取る必要があります。幸い、ベトナムでは2015年以降、外資100%出資の会社設立が飲食業でも可能になっており(かつては外資参入に条件がありましたが、WTO加盟後に規制が撤廃されました)、日本人単独でも会社を作ることができます。会社形態としては、小規模居酒屋であれば有限責任会社(LLC)が一般的で、出資者一人なら「一人有限会社」、共同出資者がいるなら「二人以上有限会社」となります。どちらにせよ、飲食店事業(レストラン業)はベトナムでは外資参入が認められており、現地パートナーを無理に探す必要はありません(もちろん信頼できるベトナム人パートナーと組むメリットもありますが、それはまた別の話です)。

資本金(出資金)の設定ですが、法令上最低資本金額の規定は特にありません。しかし、だからといって極端に少額にすると認可が下りない可能性があります。実務上、計画投資局(DPI)で投資登録証明書(後述)を審査する際に、投資計画の実現可能性(事業経験や財務能力)が厳しくチェックされるからです。例えば「あまりに資本金が少ない=本当に店を運営できるのか?」と疑われるケースがあり、出資者の過去の飲食業経験や、一定額以上の資金証明が求められることがあります。私の場合、日本の銀行残高証明を提出するよう指示があり、一時的に口座にまとまった額を入れて対応しました。一般的には数万USD(数百万円)以上の残高証明が望ましく、現地コンサルによれば5万ドル(約780万円)以上あればスムーズと言われます。また、業態によっては実際に法人の資本金として数十万ドル規模を要求されるケースもあるようです。居酒屋程度であればそこまで高額でなくても大丈夫ですが、余裕を持った資本金設定をしておくと許認可取得後の運転資金にもなり安心です。

法人設立の具体的手順は二段階あります。まず、投資登録証明書(IRC)の申請・取得です。これは「どのような事業にどれだけ投資する会社を作るか」という許可証で、設立地の市・省の計画投資局(ハノイ市の場合はハノイ市計画投資局)に申請します。飲食業は外資規制がないとはいえ、IRC審査時には計画投資局が交通局や人民委員会と協議し、予定する立地が都市計画や交通事情に照らして適当かといったチェックが行われる場合があります。申請書類には事業計画書や出資者の証明書類、日本からの残高証明などを揃える必要があり、私は現地の法律事務所にサポートを依頼しました。無事IRCが発行されたら、次に企業登録証明書(ERC)の申請です。ERCは日本でいう「法人登記簿」のようなもので、社名や所在地、代表者、資本金などを登録する手続きです。ERC申請は企業法に基づきIRC取得後に行い、通常申請から3営業日以内には発行されます。ERCが下りた段階で、晴れて現地法人の設立は完了です。なお、ERC取得後30日以内に、その内容(会社の基本情報や出資者リストなど)を国の企業登録ポータルサイト(NBRP)上で公開する義務があります。これは忘れずに行いましょう(現地の代行業者が代わりに処理してくれる場合もあります)。

ポイント: ベトナム現地法人設立には公証や認証の手続きも絡みます。日本から持っていく書類(例えば私の場合は無犯罪証明書や銀行残高証明の英訳)があれば、日本で公証→大使館認証→ベトナム外務省認証という段取りが必要でした。また会社定款や出資者決定書などの書類作成はすべてベトナム語で行われます。当然ながら登記申請もベトナム語フォームですので、自力で行うのはかなりハードルが高いです。専門の代行業者に依頼すると5千ドル(約60〜70万円)程度の費用がかかりますが、手続きの煩雑さや時間ロスを考えると、プロのサポートを利用する価値は十分あると感じます。

3. 飲食業の営業許可:食品衛生・消防・アルコール販売など

法人ができただけではすぐ営業はできません。飲食店として営業を開始するには各種許認可の取得が必要です。実際に直面した主な許可・届出は次のとおりです:

  • 食品安全衛生証明書(食品衛生許可)
    調理や飲食物提供を行う店には、所轄の保健当局からこの許可を得る義務があります。ハノイでは市の保健局または区の保健所に申請します。ERC取得後、必要書類(店舗の平面図、厨房設備リスト、食品衛生責任者の資格証など)を整えて申請すると、書類に問題がなければ10営業日以内に保健所職員による店舗検査日程が組まれます。検査では厨房の清潔さ、設備配置、衛生管理体制などをチェックされました。私の店では、日本で食品衛生責任者講習を受けた経験を持つスタッフを責任者に充て、調理場に二槽シンクや手洗い設備を設置するなど万全を期して臨みました。幸い指摘事項はなく、検査合格後15営業日以内に食品安全衛生証明書が発行されます。申請から交付まで標準で約1ヶ月強と見ておきましょう。

  • 消防に関する手続き
    消防当局への事前の許可申請自体は、小規模店舗であれば必須とはされていませんでした(大規模な劇場やカラオケ店などは開業前に消防署の審査が必要です)が、消火器の設置や避難経路の確保など消防基準は営業開始前に満たしておく必要があります。開業後も消火設備や衛生状態の定期点検が行われます。実際、ハノイ市では2023年以降に消防基準の厳格化が進み、多くの飲食店が消火器の追加や非常灯の設置を求められました。私の居酒屋でも、消防署から事前に指導を仰ぎ、消火器や火災警報器を規定数備えました。消防に関する標識の掲示(非常口サイン等)も忘れないようにしましょう。なお、これらは法令上の事前許可というより、開店後に備えた自主的な準備ですが、「お客様の安全第一」の精神でしっかり取り組むことが信頼につながります。

  • アルコール類の提供に関する許可
    居酒屋といえばお酒の提供も付きものです。ベトナムでは店内飲食を伴うアルコール販売について、法律上は追加のライセンスは不要と定められています。工業的に酒類を小売り販売する場合(酒屋やスーパーで酒を売る場合)には許可が必要ですが、料理提供が主目的で店内で酒を出す業態ならば特別な酒販免許は免除されているのです。この点は日本と違って酒類提供免許は不要です。ただし、実務上は地域当局によって運用が異なることもあります。地方によっては店舗から酒類提供の許可証提出を求められるケースもあるとJETROの資料に記載がありました。ハノイ市内では、そうした要求はないと聞きますが、万一指導があった場合に備え、販売する酒類のリストや納品書類を整えておくといった対応を取っておくと良いでしょう。

  • 環境保護計画の届出(※該当する場合のみ)
    店舗の延べ面積が200㎡超と比較的大型の飲食店を開業する場合、開業前に環境保護計画書の提出が必要になります。これは騒音・ゴミ・廃水対策など環境面での影響を記した書類で、地区の人民委員会に提出します。今回のケースは、小規模(100㎡未満)だったため該当しません。大箱の店舗を検討している方は留意してください。提出先やフォーマットは各区役所で案内されています。

以上が主な許認可ですが、この他にも従業員に健康診断を受けさせる(フードハンドラーの健康証明)とか、ゴミ収集業者との契約など細かな準備もあります。特に食品衛生と消防は抜き打ち検査が入ることもあるので、オープン後も定期的にチェックリストを確認し、清潔・安全な店作りを心がけましょう。

4. 店舗物件の探し方と契約時の注意点

お店を開くにはもちろん店舗物件が必要です。ハノイで物件探しをする際、日本とは勝手が違う点がいくつかありました。ここでは物件の探し方賃貸契約上の注意点をお伝えします。

● 物件の探し方:
ハノイで居酒屋に向く物件を探す方法としては、主に不動産仲介業者を利用する知人ネットワーク・コミュニティの情報を頼るかの二つがあります。ハノイには日本人向けの不動産仲介会社も多数あり、日本語で相談できるところもあります。また、現地の日系フリーペーパーやFacebookグループなどで「居抜き物件譲ります」といった情報が出ることもあります。実際、在住日本人コミュニティの掲示板で以前日本人経営だった居酒屋の居抜き物件情報を見つけ、内装設備付きの物件を借りた方もいらっしゃいます。居抜き物件を活用すれば初期投資を大幅に抑えられるのでおすすめです。ハノイ市内の家賃相場は場所によりかなり差があります。一般的なエリアでは1㎡あたり月12〜20ドル程度ですが、外国人が多く集まるキンマー通り周辺(日本人街)では**10〜40ドル/㎡**と幅があります。たとえば30坪(約100㎡)の店なら月1000〜2000ドル前後が一つの目安ですが、立地次第で倍以上になることもあります。繁華街中心部かオフィス街か、周囲に競合があるかなどを考慮しながらリサーチしましょう。

● 賃貸契約のポイント:
良い物件が見つかったら賃貸借契約を結びます。その際、日本と異なる習慣・注意点を押さえておきましょう。

  • 保証金(デポジット)の額と返還条件: ベトナムでは物件を借りるときに保証金(Deposit)をオーナーに預けるのが一般的です。金額は契約にもよりますが、通常家賃の1〜3ヶ月分が多いです。今回のケースは月額家賃2ヶ月分を保証金として支払い、契約終了時に問題がなければ全額返金するという条件でした。保証金の返還条件(原状回復の程度や契約解除時の扱い)を契約書でしっかり確認しましょう。

  • 前払い家賃と契約期間: 家賃の支払いは月払いだけでなく数ヶ月分まとめ払いを求められることがあります。商業物件では3ヶ月ごと前払いというケースも少なくありません。契約期間は1〜2年契約(以降は更新)が一般的ですが、長く営業するつもりなら更新条項(何年間優先的に延長できるか)も重要です。契約は2年でしたが、更新の際は家賃を市況に応じて見直す条項が入っていました。長期で借りたい場合、家賃上昇率の上限など交渉しておくと安心です。

  • 改装・原状回復の取り決め: 居抜きでなくスケルトン物件から内装工事をする場合、改装工事の範囲と退去時の原状回復義務について合意しておく必要があります。オーナーによっては「大きな構造変更は禁止」「退去時はスケルトンに戻すこと」といった条件を付けることがあります。私の店ではカウンター造作や厨房設備を入れる改装を行いましたが、契約書に退去時はそのまま譲渡可能と明記してもらいました。こうすることで、将来撤退する際に後継テナントへ設備ごと引き渡せる利点があります。

  • 物件の権利関係書類: これは見落としがちですが極めて重要です。貸主(オーナー)がその物件の正式な権利者かを確認しましょう。具体的には土地使用権証明書(いわゆる「赤本」)や建物所有証明のコピーを見せてもらいます。というのも、外国人資本の会社が店舗登記するにはオーナー側の書類提出協力が必須だからです。JETROのレポートにも「路面店では当該土地の権利書類が揃わず、食品衛生証明書等の取得に苦労する例が多い」とあります。実際の契約でもオーナーに頼んで権利書コピーを用意してもらい、会社のIRC申請時に賃貸契約書と一緒に提出します。その物件が合法に賃貸可能であることを示すためです。

  • 契約書言語と公証: 契約書はベトナム語で作成されます。日越バイリンガル契約にしてもらえる場合もありますが、いずれにせよ内容を正確に把握するため日本語訳を用意しましょう。必要に応じて公証人役場で認証を取っておくと、将来トラブルになった際にも安心です。契約書は専門翻訳家に和訳してもらい、重要条項(賃料、期間、解除条件など)をオーナーと再確認しました。言葉の壁がありますが、疑問点は遠慮せず確認することが大切です。

なお、ハノイでは近年日本人街エリア(リンラン通りや周辺)において店舗物件需要が高まっています。良い物件は競争が激しく、決断を急がねばならない場面もあるでしょう。しかし焦りは禁物です。家賃相場や契約条件のリサーチ、可能なら複数物件の比較検討を行い、納得のいく物件を選んでください。

5. 税務登録と会計管理:税務番号・VAT・法人税など

開業準備と並行して進めておきたいのが税務面の手続きです。ベトナムでは会社設立と同時に税務登録もほぼ自動で行われ、会社に付与される企業コード(税コード)がそのまま税務番号として機能します。つまりERCに記載の企業コード=税番号であり、別途税務署へ登録申請する必要は基本的にありません。もっとも、税務署から正式な税コード通知書類が発行されるので、受領したら大切に保管してください。

VAT(付加価値税、消費税に相当):
ベトナムの標準VAT税率は10%です。(現在は軽減税率適用で8%もある)飲食店の売上には原則としてこの10%のVATが課されます。売上時にお客様からVATを預り、仕入時に支払ったVATと相殺して納税する、日本の消費税に近い制度です。中小企業向けに簡易課税のような方式もありますが、基本的には毎月または毎四半期ごとのVAT申告・納付が義務付けられます。新設企業や売上規模が一定以下の場合は四半期ごとの申告が認められ、規模が大きくなると月次申告になります。小規模店は創業1年目だったので四半期ごとにVAT申告をしています。VAT申告書(売上と仕入のVAT額を報告するもの)は電子申告システム上で提出し、不足額があれば指定口座へ納付します。期限までに申告・納付を怠ると罰金や延滞利息が科されるので注意しましょう。

法人所得税(CIT):
日本の法人税にあたるものです。ベトナムの法人税率は一律20%(2016年以降の標準税率)と定められています。課税年度は暦年(1〜12月)ですが、事前許可を得れば決算期を変更することも可能です。法人税についても年1回の確定申告と納税が必要で、さらに四半期ごとに概算の税額を前払い(予定納税)します。例えば第1四半期(1〜3月)の業績に基づき概算税額を4月末までに納付し、これを第4四半期まで繰り返した上で、年度末に確定計算し調整します。もし仮納付合計が確定額より20%以上少ないと、超過分に対する延滞税(利息)が課せられるルールがあります。開業初年度は利益が読みにくいですが、私の場合一応黒字となったため、翌年からは四半期ごとの納税額を慎重に見積もっています。

その他の税務:
お店を運営する上で他にも知っておきたい税があります。まず事業登録税(ライセンス税)です。これは会社や店舗に毎年課される定額の税金で、資本金によって額が決まります。資本金が1億ドン(約615万円)以下なら年間200万ドン(約1.2万円)、それ以上なら300万ドン(約1.8万円)と定められています。新設企業は初年度は免除、翌年から納付というルールもあり、私の会社も2年目から毎年納めます。さらに、従業員を雇えば個人所得税(源泉所得税)の計算・納付も必要ですし、海外から機材を輸入すれば関税や場合によっては外国契約者税(FCT)といったものも絡んできます。かなり専門的になりますので、小規模とはいえ現地の会計税務の専門家を顧問に付けることを強くおすすめします。私も月次の帳簿付けや税務申告をベトナム人会計士に依頼しており、月数百万ドン程度の顧問料で煩雑な手続きを代行してもらっています。会計ソフトはベトナム会計基準に沿ったものが必要で、領収書管理(電子インボイス制度)など日本と異なる点も多いです。プロに任せることで本業の店運営に専念できるので、ぜひ検討してください。

6. オープンまでのスケジュールと初期コストの目安

以上の準備を経て、いよいよ開店となるわけですが、実際問題としてオープンまでどのくらいの期間と費用がかかるのか気になりますよね。私自身の経験や周囲の事例から、一般的なスケジュール初期コストの目安をお伝えします。

● 開業までのスケジュール(目安)
もちろんケースバイケースですが、法人設立から内装工事、許認可取得まで含めると3〜6ヶ月程度は見ておいた方が良いでしょう。おおよそ次のような流れです:

  1. 情報収集&渡航準備(1ヶ月): 日本でJETROや大使館の資料を集め、現地視察の段取り。ビザ申請もこの時期に開始しました。

  2. 現地入り・物件探し(1〜2ヶ月): ハノイに渡航後、仲介業者の案内で物件内見を重ね契約。契約書作成と並行して会社設立手続き開始。

  3. 法人設立手続き(1〜2ヶ月): 必要書類準備→IRC申請・取得→ERC取得まで。物件契約書の用意や銀行口座開設もこの時期。

  4. 内装工事・採用活動(1〜2ヶ月): 設計打合せ後に改装工事着手。施工中にスタッフ求人・面接を実施。仕入れルートの選定やメニュー試作も進めました。

  5. 各種許認可取得(2週間〜1ヶ月): 工事完了後、保健所に食品衛生許可申請(検査・許可待ち期間)。消防設備最終点検。VAT課税業者の登録など税務手続き確認。

  6. プレオープン・本開業: 許可証が揃い次第、試運転としてプレオープンを数日実施し、問題点を洗い出してからグランドオープン。

当初想定よりだいぶ時間がかかった印象です。特に物件探し法人設立に思いのほか時間を要します。物件は妥協したくないし、会社設立も書類不備で差し戻し…なんてことがあると1〜2週間簡単に延びます。余裕を持った計画と、遅延要因が発生したときのバックアップ案(例えば許可待ちの間にスタッフ研修を進める等)を用意しておくと良いでしょう。

● 初期コストの目安
次にお金の話です。開業にかかる初期費用は規模や内装次第でピンキリですが、小規模居酒屋の場合のざっくりした目安を示します(私の実例と周囲の話から算出)。

  • 会社設立・各種許可取得費用: 行政手数料や代行業者への依頼費用です。外国人100%出資会社の場合、設立〜営業開始まで約4,000ドル(60〜70万円)から可能とされています。実際には食品衛生許可申請や労働許可免除申請など細かな費用も加わり、私はトータルで約100万円ほどかかりました。この中には翻訳・公証費用、日本での証明書取得費なども含みます。

  • ビザ・渡航費用: 投資ビザ申請料や航空券代、渡航後の一時滞在費などです。ビザ代は数万円程度ですが、ビザ取得のための書類準備(無犯罪証明書の取得と翻訳、公証など)に手間と費用がかかります。渡航回数にもよりますが、合計20〜30万円は見込んでおくとよいでしょう。

  • 物件取得費用: 前述の保証金(デポジット)と前払い家賃です。例えば月1000ドルの物件を契約するなら、保証金2ヶ月+前家賃3ヶ月で約5,000ドル(70万円弱)が契約時に必要になります。これに仲介手数料(家賃1ヶ月分相当が相場)や契約書作成費用が加わる場合もあります。なお保証金は退去時に戻るお金ですが、開業時には出費となる点に注意です。

  • 内装工事費: 店舗の造作工事や設備設置費です。居抜き物件ならかなり抑えられますが、それでも看板作り替えや備品購入は発生します。ゼロから内装する場合、仕様によりますが1㎡あたり250〜700ドル程度が目安とされています(現地業者なら安め、日系施工会社だと高め)。例えば50㎡の店舗なら1万2500〜3万5000ドル(約180万〜500万円)となります。厨房設備込みの居抜きは、壁紙張替えや照明追加などの軽微な改装だけで済み、約50万円ほどに収まります。ただ冷蔵庫や製氷機、卓上什器など備品購入に別途30万円ほど費やしています。

  • 人件費(開業準備段階): スタッフをプレ開業前に採用し研修するなら、その給料も計上が必要です。幸いベトナムの人件費は高くありません。私の場合、オープン1ヶ月前から店長候補と調理スタッフを雇い、それぞれ月給500ドル(約7万円)程度で研修を兼ねた仕込み作業をしてもらいました。数名分で数十万円が人件費として先行投資となりました。

  • その他雑費: 開業広告費やオープニングセレモニー費用(花輪代など)、許認可の印紙代、厨房備品や食器類の購入費、日本から持ち込む食材・調味料費用など、細々とした出費があります。意外とかさむので数十万円のバッファを見ておくと安心です。

以上を合計すると、私の例では初期投資総額は約500〜600万円程度でした。内装にお金をかければ1000万円超えも十分ありえますし、逆に極力ミニマムに始めれば300万円台も不可能ではないでしょう。しかし、あまりに資金に余裕がないと後の運転資金にも響きます。**「初期費用はできれば1000万円、最低でも500万円」**くらい用意できると精神的に楽だと感じました(これはあくまで個人の感想です)。なお、ベトナム現地ではクレジットカード決済が普及しています。キャッシュフロー管理のためにも、VAT請求書(赤インボイス)の発行やカード決済端末の準備など、開業後すぐ必要なお金回りの仕組みも整えておきましょう。

7. 日本人経営の居酒屋・開業事例紹介

最後に、ハノイで実際に居酒屋を開業し活躍している先輩オーナーの事例を二つご紹介します。どちらも小規模ながら個性あふれる人気店です。

もてなし居酒屋「みけそん」(ハノイ市バーディン区リンラン地区、2023年7月開業

ハノイ日本人街とも言えるリンラン通り裏手に、2023年にオープンした居酒屋です。オーナー兼料理長は柳原さんという福井県出身のベテラン料理人。旅館や京都・祇園の割烹、大阪の小料理屋で腕を磨き、地元福井で自身の居酒屋も営んだ30年以上の料理人経験を持つ方です。ベトナム人スタッフと接するうちにベトナムの活気に惹かれ、「この国に日本の居酒屋文化を広めたい」とハノイ進出を決意されたそうです。お店のコンセプトは**「日本を感じられる料理と空間」**を提供することで、福井直送の「汐うに」や「へしこ(鯖の糠漬け)」といった珍味から、福井時代に人気だった「出汁巻き卵」「エビマヨ」「手羽先唐揚げ」まで、自慢の料理がずらりと揃っています。店名の「みけそん」は福井弁で「おいでよ」という意味とのことで、その名の通り日本人はもちろん多くのベトナム人客もとりこにしています。店内は1階カウンター、2階テーブル席、3階掘りごたつ個室と3フロアあり、一人飲みから最大40名の宴会まで対応可能なキャパシティを備えています。開業から日が浅いながらも料理のクオリティと店主の人柄で評判を呼び、ハノイ在住日本人に安心できる憩いの場を提供している好例です。

おやじ食堂(ハノイ市バーディン区リンラン地区、2024年12月開業

こちらは2024年末に同じリンランエリアに誕生した和食居酒屋です。店主の山中博雄さんはベトナム在住20年・飲食歴30年という大ベテラン。もともとは電子部品関係の駐在員として初訪越し、その後日本でのサラリーマン生活を経ても料理への情熱を捨てきれず、ついに退職してハノイに戻り料理人の道を歩んだという異色の経歴です。ハノイの韓国人街で和食店の経営や地方都市タインホアのホテル料理長など、16年もの現地経験を積み、満を持して自身の店「おやじ食堂」を開かれました。「安心して食べてほしい」という信条から食材は日本産や日系業者のものにこだわり、納得できない料理は絶対に出さない頑固さで知られます。厨房ではスタッフに「捨てる勇気を持て」と教え、不出来なものは廃棄してでもお客様には出さない徹底ぶりです。提供する料理はハンバーグや餃子など日本の街の洋食・中華的メニューが中心で、その数なんと50種類以上の定食・一品料理が揃います。ランチにも力を入れており、全定食に特製焙煎コーヒーが付くサービスも好評です。店内は1階カウンター7席、2階テーブル席(最大20名収容)という家庭的な空間で、予算に応じた飲み放題コースにも柔軟に対応しています。「ハノイに住む日本人が、安心して美味しいご飯を食べられる場所を作りたい」という山中さんの想いが込められた一皿一皿は、現地邦人のみならず多くの人々の心と胃袋を掴んでいます。

以上、お二人の事例から感じるのは、「自分の強みや想いを形にした店作り」の大切さです。それぞれバックグラウンドは違えど、長年培った料理への愛情と、日本人らしいきめ細やかな気配りが伝わってきます。異国の地で居酒屋を営むのは決して楽なことばかりではありませんが、同じ志を持つ先輩たちが道を切り開いていることは心強いですね。

おわりに:安心して一歩を踏み出そう

長文になりましたが、ハノイで居酒屋を開業するまでの流れをビザから開店まで順を追って説明してきました。振り返れば、一つひとつ手続きをクリアするごとに自信がついていくでしょう。大事なのは「確実な情報」と「信頼できる現地パートナー」です。JETROや大使館の公式情報、現地法律事務所・会計事務所のアドバイスを活用しつつ、困ったときは先輩経営者や専門家に遠慮なく相談しましょう。ベトナム語の壁も、プロに任せれば乗り越えられますし、日々勉強して少しずつ覚えていけば現地スタッフとのコミュニケーションも円滑になります。

ハノイは経済発展著しく、日本食や居酒屋に対する需要も高まっています。「おいしい料理と居心地の良い空間で人を笑顔にしたい」という思いがあれば、きっと現地のお客様にも受け入れられるはずです。ぜひ焦らず準備を進めて、あなたの夢の居酒屋を実現させてください。一緒にハノイに乾杯できる日を夢見て…。最後までお読みいただきありがとうございました!

参考資料:

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General Director

2018年からハノイで賃貸仲介事業を行っています。趣味はバイクでソロツーリング。宅地建物取引士。

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