ベトナム駐在・就労の在留資格完全ガイド:取得手続き・必要書類・VNeIDの最新情報
政府方針と法改正の背景
ベトナム政府は近年、外国人材の受入れ拡大と同時に、安全管理強化の両面を追求しており、制度全体の見直しが進められている。近年の出入国管理法改正(2023年施行)では、日本人のビザ免除期間は15日から45日に延長された(2023年8月15日施行)。さらに政府は2025年3月、投資額に応じた在留権「ゴールデンビザ」の補完策として「在留許可カード購入制度」の導入を検討するよう首相指示している。同時に、2025年7月以降は外国人にも全国統一の電子ID(VNeID)取得を義務化し、行政手続きのデジタル化を加速させる方針である。これらの動きは、外国人投資家・技術者の長期滞在促進を目指す一方、ビザ申請手続きや在留管理の厳格化も含んでいる。
労働許可証取得要件の変更(政令70/2023号)
2023年9月18日、政府は政令70/2023/ND-CPを公布し、外国人労働者の就労手続きを大幅に見直した(同日施行)。主な改正点は以下の通りです。
- 学歴・実務経験要件の緩和: 旧政令では専門家・技術者に学歴と職務経験の連続性が求められていたが、改正後は「大学卒以上かつ当該職務に関連する3年以上の実務経験」があれば要件を満たす。これにより、専攻学科と就労職務の一致は不要となった。
- 追加書類の明確化: 管理職・エグゼクティブ向けに、会社定款・事業規則・企業登録証または設立許可、任命書などの提出が新たに義務付けられた。従来の単なる就任証明書に加え、法人格を裏付ける書類の提出が必要となる。
- 経験証明の簡素化: これまで外国企業発行の「実務経験証明書」のみ認められていたが、改正後は過去にベトナムで取得した労働許可証も実務経験の証明書類として有効とされた。退職企業に連絡できない場合などでも経験を立証しやすくなる。
- パスポート証明の簡略化: 従来はベトナム国内で公証または領事認証済みのパスポート写しが求められていたが、改正により現地法人が認証したパスポート写しで代替可能となった。企業社長の署名押印による在職証明書と併用することで、公証手続きが不要となり手続きが簡略化される。
- 求人告知(ベトナム人募集)の義務化: 2024年1月1日以降、外国人雇用前に公共ポータル上で15日間ベトナム人向け求人を掲示し、適格者が採用できなかった場合にのみ労働許可申請を進められるようになった。この厳格化により、外国人採用前の募集工程が必須となった。
- 複数勤務地の手続: 同一市省内の複数勤務地で働く場合は当該市省の労働局へ申請し、他市省の場合は労働省(中央)に一括申請すればよいとされた。また、申請書には全勤務地を記載し、勤務開始後3営業日以内に労働省へ電子的に外国人雇用情報(フォームNo.17)を報告する義務が課された。
ベトナムの主なビザの種類
■ 就労ビザ(LDビザ)+労働許可証
外国人がベトナム企業や日系現地法人で就労するためには、LDビザと労働許可証の取得が基本です。
対象:マネージャー、管理職、専門家、技術者など
期間:ビザは最大2年(延長可)、労働許可証も通常は2年有効
■ 投資家ビザ(DT1〜DT4)
ベトナム企業に出資する外国人、つまり「投資家」に発給されるビザです。投資額により分類され、条件や有効期間が異なります。
DT1:100億VND以上の投資(最大10年のTRC取得可)
DT4:3億VND以上~少額投資まで(有効期間は最短)
■ 業務・商用ビザ(DN1/DN2)
短期的にベトナムを訪問する出張者向けのビザ。
目的:商談、会議、プロジェクト視察など
期間:通常3〜6カ月(シングル/マルチ)
■ 駐在員ビザ(NN1〜NN3)
日本企業のベトナム駐在員事務所や代表事務所に派遣される管理職・職員向けのビザです。
NN1/NN2:所長・副所長クラス
NN3:事務所職員
ビザ・在留許可制度の最新動向
2024~25年には在留資格制度にもいくつか変化が見られる。社会保険法改正(2024年6月可決、2025年7月施行)により、国外居住ベトナム人配偶者へのビザ免除枠が正式化された一方、ビザの種類や在留カード(TRC)の運用では以下の点に留意が必要である。
- 一時在留許可証(TRC): ビジネス・就労ビザ保有者はTRCを申請でき、TRCの有効期間は1~10年(ビザ・労働許可証と同期間)とされる。TRC所有者はその期間中、別途ビザ取得は不要である。TRC申請は公安省入国管理局が担当し、申請書類受領から5営業日以内に審査決定される。申請にあたっては、外国人の推薦機関、パスポート、労働許可証(または免除確認証)、居住証明などが必要となる。
- ビザ免除・免除証: 2023年改正出入国法(23/2023/QH15)以降、日本を含む一定国籍者の短期ビザ免除日数が延長された。またベトナム政府は2025~28年にかけ、対象国・期間を順次拡大する方針である。滞在が45日超の場合は従来通りビザが必要で、ビザ申請には招聘状等も引き続き求められる。
- TRC購入制度の検討: 政府は上記の「在留許可カード購入制度」を研究中で、一定額を支払うことで長期在留権が得られる仕組みを構築する意向を示している。実現すればビザ更新の代替策となる可能性があるが、現時点では詳細未定である。
VNeID導入と入国・在留手続への影響
図: ベトナム公安省発行の外国人向け電子識別証(VNeID)発行に関する通知220/TB-V01(2025年6月17日付)の写し。内容に「外国人向け電子識別システムを2025年7月1日までに完成させ、7月1日から発行開始」と明記されている。 ベトナム公安省は2025年7月1日をめどに、**外国人向けの電子個人識別ID(VNeID)**の本格運用を開始すると表明した。これに先立ち、2025年7月1日から8月19日の「50日間キャンペーン」を実施し、全国の公安窓口で外国人向けVNeIDの取得を周知・促進する予定である。外国人が取得するVNeIDは原則レベル2で、パスポート・有効な在留カード(TRC)・労働許可証・居住証明などの提出が必要とされる。VNeIDがないと銀行口座開設やSIM登録、オンライン行政手続き(税務・社会保険等)が制限されるため、駐在員・企業は2025年夏までに社員のVNeID取得準備を進める必要がある。
労働許可証免除対象・業種別の緩和動向
現行法(政令152/2020)では外国人の原則的就労には労働許可証が必要だが、一定条件下で免除制度がある。たとえば大企業の出資者や役員、高度専門家などが免除対象だが、今後の緩和傾向としてはテクノロジー・金融系人材に優遇措置を拡大する動きが注目される。内務省案では、金融・科学技術・イノベーション分野や国家デジタル変革プロジェクトに従事する専門家も免除対象に追加する提案がある。また科学技術省案では、短期滞在(3ヶ月未満)の科学技術・イノベーション専門家に対し、労働許可証とビザ関連書類の提出を免除する方策が審議されている。これらが実現すればIT・フィンテック人材の採用は容易になると見込まれる。一方で、製造業など他分野への特段の免除拡大報道は現時点でない。免除拡大に伴い、外国人健康診断書の有効期間も発行日から12ヶ月以内で認める改正案が提出されており、書類準備の柔軟化も図られる見込みである。
実務上の留意点
- 申請窓口: 労働許可証申請は原則として当該外国人の勤務地を管轄する省・市の労働局へ提出する。複数市省にまたがる場合は労働省(中央省庁)へ一括申請する。申請書にはすべての勤務先を明記すること。就労契約締結後7日以内に雇用契約を労働局に提出する義務もある。TRC(在留許可証)は公安省入国管理局窓口で手続きし、申請から5営業日以内に審査決定される。
- 申請プロセス: 新制度下では、外国人雇用は「求人広告掲載(15日間)→雇用承認報告→労働許可申請→ビザ(またはTRC)申請」という流れとなる。特に求人広告義務では、ベトナム人を採用できなかったことを証明して初めて外国人労働許可に進めるため、速やかに募集作業を行う必要がある。申請書類は完全かつ正確に準備し、必要書類に不備があると認められれば申請は却下(差戻し)され、再申請となるリスクがある。
- 処理期間: 労働許可証取得までには通常3週間~1ヶ月程度を要するのが目安である。要件厳格化により必要書類が増えたことから、社内での事前準備に十分な時間を確保しておくことが重要である。TRC(在留カード)は労働許可証取得後に申請し、通常数日~1週間程度で発給される。
- 不備時のリスク: 書類不備があれば申請処理が大幅に遅延し、場合によっては罰則(申請取消しや行政罰金)を受ける可能性がある。特に求人広告や事後報告(労働省への3日以内報告)の省略は違反となるため、提出期限と内容の確認を怠らないことが肝要である。
まとめ:準備は早めに、情報は最新をチェック!
ベトナムで働く、住む、帯同する——。そのすべてに「在留資格」は欠かせません。そして、2025年からはVNeIDの本格導入が進み、外国人も対象となる新しい制度がスタートします。
事前の計画と最新情報の確認が、安心してベトナムでの生活を送る第一歩です。今後も制度は進化していくので、定期的に大使館や現地行政の発表をチェックしましょう。